七曜式魔法序論

〔2009.8発表,CD,全9曲〕
 七曜式魔法序論は上海アリス幻樂団「東方紅魔郷 ~ the Embodiment of Scarlet Devil. 」のピアノアレンジ作品であり、現代と近代の狭間に立つ少女の三部からなる物語である。2003年から2009年まで幾度かの中断を挟んで完成した。製作の原動力は東方紅魔郷という作品の被分析性だ。なぜ多くの人の支持を得たか/自身を魅了したか。気分に沿ったか。

 時代-大仰すぎるのであれば同人誌のジャンル勢力図-を書き換えるヒット作には共通項がある。そのキャラクタ製作術。ラベリング技術。背景にファンの遊ぶ余地を残している。
 2000年刊行のアニメスタイルという雑誌で、エヴァの庵野秀明監督のインタビューにはセーラームーンの構造踏襲を意図的に行ったとある。ラベルの集合で作られたキャラクタ。世界観に残るブラックボックス。友達のいない天才少女、戦えないヒロイン。楽園の素敵な巫女、東方もその延長上にあると思った。一瞬で把握可能な特徴、それ以外不明瞭。その構造が「なぜ機能したか」に興味が出た。

 僕らが自分の都合を「つい投影してしまう」ブラックボックスのからくりそのものは、案外に解析されきっていないように思う。ただ、投影する対象(スクリーン)としての性能はラベルの内側の真空度がもたらすのだろうと想像がつく。そして僕らはスクリーンに投影するものは、的確に配置されたラベルによって指向性が与えられたイメージ群だ。共同幻想を導く仕掛け。だがラベルは何に対して的確なのか?

 紅魔郷は和名の主人公たちが、カタカナの敵と戦っていた。十六夜咲夜は和名でありながらカタカナに与するが故に異質だった。彼女たちそれぞれは明らかに異なる文化背景から生じており、しかし幻想郷のなかでは軋轢を持ちながらも共通の文化を戴いていた。
 幻想郷は現世無用になったものの集合である。現世の枠=国で拾いきれないもの=ディアスポラ、その文化と歴史が少女の形をとって衝突、均衡、理解を試みている。それはワンプレイで様々な文化圏の移動=旅を疑似体験させる手段でもあったろう(名と服装が文化のラベルでなくて何だ?)。だが東方紅魔郷発表当時であれば9.11以降というべきか、僕たちは異文化理解に強いプレッシャーを感じている。「時代の気分」との合致した一つの要素はそれだと分析する。換言すれば、自分にはキャラクタたちがこう言っていると感じたのだ。「私たちをお前の歴史に位置づけてみろ」と。

 この内的抑圧/衝動をキャラクタの配置によって言い当てた。それが僕の分析する紅魔郷が持ち得た求心力、そのドライビングフォースの正体だ。紅魔郷はプレイヤーに史観整理を求めている。だから自分なりの史観を見せるのが、作り手としての返礼だろう。

 音楽作品としての中期テーマは、前期のそれが感情記述であったため、叙事=場面記述とした。上述の作品全体のテーマと併せ、つまり七曜式魔法序論は「ディアスポラというキーワードで近代史観を整理した」「その上で重要と思われる事象と舞台上に紅魔郷のキャラクタを配置し、場面を音楽で書こうとした」作品といえる。第一部は「ヨーロッパ/ アフリカ」パチュリーとツェペシュの娘達の物語。第二部は「アジア/ ヨーロッパ」美鈴の視点でパチュリーと出会う物語。第三部は紅魔館の物語。パチュリー視点の一、三部を中心としている。また、近代ピアノは時代の機械礼賛の気分とリンクし、技巧と無謬性がロマンを置き換えていった歴史と自分は捉えている。小論としてゴーストノートに関してを添えたが、ピアノ史としての近代を概観することもまた本作品の目的となっている。
七曜式魔法序論


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CD仕様
ケース=ダンボールケースA5サイズ+シール1C
ブックレット=16p 1c アラベールスノーホワイト
レーベル=シルク2C[DIC583,DIC219]
その他=EVAボタン黒、OPP袋

楽譜(PDF)
五声鋼琴符「賢者の石」▼DL
上海紅茶館▼DL
原曲1
02 明治十七年の上海アリス
03 ラクトガール ~ 少女密室
04 U.N.オーエンは彼女なのか?
05 魔法少女達の百年祭
06 U.N.オーエンは彼女なのか?
07 亡き王女の為のセプテット
08 メイドと血の懐中時計
EX 上海紅茶館 ~ Chinese Tea

1 トラック1は東方projectオープニングテーマの動機によるオリジナル


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